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00:00初めて届いた松尉の便り、読めば読むほど思いは募る。甘く切ないこの母情。
00:09はいふく、愛しの松尉様、返事を書こうと筆取れと、たちまちぐうすか夢の国。
00:16一方、松尉はここでも因縁中作の企みで、手に負えないならずもの正体をあてがわれ、売られた喧嘩を買ったはいいが。
00:27駐屯地司令に部下の目の前で殴られ、喧嘩の原因を問い詰められる羽目となる。
00:33真実を言えば松尉は助かり、鬼島は罰を食う。
00:37どっちを取るか。ここはシベリア、少年場。
00:42はい、御寿院松尉、喧嘩の原因は何だと聞いておるんだ。返答せえ。
00:59何でもありません、少佐殿。自分たちは実戦に備えて訓練をしていただけであります。
01:05軍曹殿。
01:07ああ、なんだか風向きが違うようだな。
01:10何しろ、ずっと広報勤務で腕がむずむずしておりますから。
01:15うーん、そうか。実戦の訓練か。喧嘩ではないのか。
01:20絶対に違います。
01:22よし、お前たちそんなに腕がむずむずしてるなら、望み通りにしてやろう。
01:30近いうちに貴様の部隊を最前線に移動させる。
01:35最前線?
01:38移動の用意をしとけ。
01:40わかったな。
01:43最前線。
01:46最前線だってよ。
01:48すまん、こんなことになってしまって。
01:56いいってことよ。
01:58何?
02:00みんな、この松尉と一緒に地獄の底へでもどこへでもつき合おうじゃないか。
02:05はい。
02:07みんな。
02:10小隊長殿。
02:12自分たちは小隊長殿を誤解しとったであります。
02:15東京から転任してきた証拠など、自分たちのことをバカにしていると思っておりました。
02:23しかし、俺の一言でお前たちみんなを最前線に連れ出すことになってしまった。
02:29何?腕がむずむずしてたってのは本当であります。
02:32負傷を鬼島軍曹。
02:34小隊長殿のお供ならどこへでも行きます。
02:37行くぜ。
02:38行くぜ小隊長。
02:39俺も行くぜ小隊長。
02:40俺もだ小隊長。
03:04お前は飲んでるか?
03:20小隊長。
03:22グッドやってください。
03:23グッド。
03:24嬉しいぜ。
03:26今夜は出陣の前祝いだ。
03:28こうなれば俺たちならずもん部隊の腕を見せてやる。
03:33そうだそうだ。
03:39やれやれ。
03:40ベニオさんといい部下といい、どうも私は酒飲みと縁があるようだな。
03:49それにさっきの喧嘩にしても、どう見てもベニオさんのスタイルだ。
03:58明日は最前線。
04:01生きて帰りますよ。
04:04ベニオさんきっとあなたのところへ。
04:14どうぞ。
04:16ご賞番します。
04:27結構なお手前で。
04:37苦い。
04:40もうだめ。
04:44ご無理はなさらないことよベニオさん。
04:47いいえ。
04:48何のおこれしき。
04:54将尉が戦場で戦っておられるのですから、私もめげずに花嫁しようぐらい。
05:01そして道があるほどに美しくなって将尉が無事のお帰りを待つのです。
05:07女らしくなるのだわ。
05:09無事にお帰りになったその暁には。
05:16いやらしい。
05:20女らしくなるのだ。
05:26またしてもお花の首が首が。
05:29死ななきゃ直らないのでしょう。
05:36どうしたのじゃ。
05:37何パックして花の穴もふさいでしまったじゃと。
05:48女らしく。
05:49女らしく。
05:52大正七年ごろ、かなりや将尉時の狸林などの童謡が流行した。
05:59歌を忘れた花嫁。
06:08何だ今の怪音波は。
06:10ガラスが割れたぞ。
06:12何だ今のは。
06:14童謡。
06:15童謡が締め殺される声じゃなかったの。
06:25しかしまあ、このごろの紅尾さんの変わったこと。
06:31昔の面影、今伊豆湖だもんね。
06:35それも恋へ将尉。
06:38それほどまでに将尉のことを。
06:45取り乱すな、蘭丸。
06:47私は御釜の道に走ってしまいそう。
06:51どうすればいいんでしょう、牛さん。
06:54俺も目覚めてしまいしょうよ。
07:00え、舞踏会。
07:03ご招待状が来ているのですよ。
07:05一等で遊ばせよ。
07:06たまには気晴らしをしなくては。
07:09舞踏会。
07:10ええ。
07:11あなたのお披露目と忍が帰ってくるまでに
07:14家族の世界を見ておくのも良いし。
07:17そうじゃ。
07:18盛大に車公会にデビューするのじゃ。
07:20エスコートは私がするぞ。
07:22そうですよね。
07:24もう秋ですものね。
07:26うどんもそろそろおいしい頃ですわね。
07:31うどん狩り久しぶりだわ。
07:36だめじゃこれ。
07:41まあ、お似合いよ。
07:44ベニオさん、これは私が六名間華やかなりし頃の
07:48お気に入りのドレスですよ。
07:51ベニオ、用意はできたかな。
07:54はい、おじいさま。
07:55参りましょう。
07:59大丈夫かよ。
08:01愛嬌、愛嬌。
08:06デザイア舞踏会へ乗り込まん。
08:09本当大丈夫かしら、ベニオさん。
08:13どうぞ。
08:14まあ、ご苦労。
08:19レウスさん、あの二人だけで行かせちゃって心配だわ。
08:23俺ならよ、大丈夫でね、追いかけるぜ。
08:26よし、それならそうと。
08:28こっちにもちゃんと考えんわ。
08:33出発。
08:34それ行くぜ。
08:39これより移住員小隊は全員最前線へ向かって出発する。
08:44小隊、気をつけ。
08:46左向け、左。
08:48ファイヤー、進め。
08:55かわいそうによい最前線か。
08:57何、生きて帰るかな。
09:00何、どうせ成らず者舞台だ。
09:03全滅したって言ってあれも泣く奴はいないさ。
09:10もしもし、因縁中佐殿ですか。
09:13因縁だわ。
09:14ご注文通り、移住員小隊はたった今最前線へ出て行きましたよ。
09:19そう、どうもご苦労様。
09:22これでよろしいんですな、中佐殿。
09:25佐々木少佐、行き先はシベリアの最前線だろうね。
09:29いやいや、行き先は地獄ですよ。
09:32まだ誰も生きて戻ったことのない。
09:35結構、結構、大いに結構。
09:38はっはっはっは。
10:06ああ、踊っとるわ。
10:08華やか。
10:13さあ、着いたよ。
10:15あとは頼んだぜ、ランマル。
10:18さて牛さん、車高ならお手のもんよ。
10:40明治の六名官の頃はもっともっと華やかだったのでしょう。
10:44ねえ、殿様。
10:46そういえば、土壌すくいとはちょっと違うようじゃの、このお鳥は。
10:53あの、おじいさま、もしかして舞踏会に来たのは初めてだったりして。
10:59あったり。
11:04せめて女らしくと、無理してこんなドレス着てきたけど。
11:08はあ、歩きにくいったら。
11:11べ、べ、べんりょうさん、足、足が2本。
11:15しっかりしてよ、ほんとに。
11:18松陰、あなたが帰ってくるその日まで、あたし頑張っちゃう。
11:38全体、止まれ。
11:40おい、全員異常ないか。
11:43全員異常ないか。
11:45第一分隊異常なし。
11:47第二分隊異常なし。
11:49第三分隊。
11:52一名落後、小林二頭兵がいません。
11:56え、小林が。
12:00鬼島軍曹、後の指揮を頼むぞ。
12:18小林、小林二頭兵。
12:21小林、どこだ。
12:24小林二頭兵。
12:36あれは小林。
12:44小林二頭兵。
12:48おい、しっかりせい。
12:50さあ、しっかりするんだ。
12:58小隊長殿、先へ行ってください。
13:01ここで下手だったんじゃ、ご自慢の入れ墨が泣くぞ。
13:05自分はもう歩けんのです。
13:07どこが悪いのだ。
13:09一昨日から熱が出て。
13:11なぜ申し出なかった。
13:13野戦病院へ残れたんだぞ。
13:17仲間がみんな死にに行くのに、自分一人残れません。
13:21お前、国に家族が待っているんだろ。
13:24なあに、自分はみな死後でしてね。
13:27誰も待っちゃいやしやせん。
13:32いるだろう、誰か一人ぐらい。
13:35そいや、俺がぶち込まれていた艦隊員に、
13:39えらく俺のことをかわいがってくれた先輩がいたっけ。
13:43その先生に会いたくはないか。
13:46そりゃあ。
13:48おい、その先生はな、お前の無事帰国をきっと待っている。
13:52その先生のために頑張るんだ。
13:55はい。
13:57立て。
13:59さ、さ、立つんだ。
14:01しっかりしろよ。
14:04さあ、お前にもらえ。
14:07さあ、よいしょっと。
14:11ヘッヘッヘッヘッ。
14:13お兄ちまん。
14:15ヘッヘッヘッヘッ。小林は俺の太刀口でね。
14:18見殺しにはできねえ。
14:20お兄ちまん。
14:22後の指揮をお前に任せたはずだぞ。
14:25ふん、俺は承知したなんて返事をした覚えはねえよ。
14:29ヘッヘッヘッヘッヘッ。
14:31はっ。
14:35はっ。
14:39小隊長。
14:40こんなところでモタモタしたらやばいぜ。
14:45お兄ちまん、乗れ。
14:46乗って小林を連れて行け、早く。
14:48いやなこった。
14:50ほら、上官の命令だぞ。
14:53こんなところじゃ上官もヘッタクレもねえよ。
14:56一人だけいい子になろうなんてずるいぜ。
14:59え、小隊長さんよ。
15:01よし、お前、博打は何が得意だ。
15:06これさ。
15:11よし、それで決めよう。
15:14さあ、はれ。
15:16半だ。
15:18よし、その逆だ。
15:20じゃ、行くぜ。
15:21いい。
15:32おい、これは半なのか、どっちなんだ。
15:35え、腐らせやがるぜ。
15:38上官も知らねえこんなど素人に
15:41お兄ちまさんが引きを取ったよ。
15:45よいしょっと。
15:50じゃあな。
15:51行け。
15:54小林、狼に食われるんじゃねえぞ。
16:05さて、僕の運命、長と出るか半と出るか。
16:30あら、ベニオン。
16:33狼。
16:36どうしてのよ、あなたがこんなところへ来れないって。
16:40いろいろと修行中なのよ。
16:42修行中。
16:47そう、日野夫さんが帰ってくるまでに。
16:51でもこんなところに来なくてもよかったのに。
16:54あなたみんなからギンギンににらまれてるの。
16:56ギンギン、あ、なんで、どうして。
17:01どうしても何もベニオン。
17:03日野夫さんは社交界のアイドルだったのよ。
17:06家族の御礼状御婦人がた。
17:08一人として心惹かれぬ方はいなかったくらい。
17:13つまり日野夫さんと結婚したいと思っていた人は
17:16それこそワンサといたわけよ。
17:18そうか。
17:21それに家族って見かけほど上品なものじゃないんだから。
17:25あなたに我慢できるかしらね。
17:27あらごらん、遊ばせ奥様。
17:29あの玉木さんとご一緒の方。
17:31まあ、なんて時代遅れなドレスをお召しになってるのかしら。
17:36大方どこか田舎からでも出てきたのでしょ。
17:40あら、あの方ですわ。
17:42ほら、移住院刑の。
17:44え、日野夫様の婚約者。
17:47まあ、あんな方でしたの。
17:49日野夫様のことですから、どんな美しいお姫様かと思ってました。
17:53悔しいわ、あたしの方が美しいし。
17:56ベリーキラーの日野夫様ともあろう方が意外なご趣味よ。
18:00まあ、よろしいわ。
18:02あたしたちを出し抜いて日野夫様を奪った罰は。
18:05こちらへ参ります。
18:07皆様、ご一緒に簡単に差し上げましょう。
18:10なるほど、銀、銀のお目目。
18:13まあ、これはこれは移住院の殿様。
18:16お珍しいございますかと。
18:18おや、何、今宵は孫娘をご紹介かたがた。
18:22それそれ、今お噂しておりましたのよ。
18:26なんてまあ可愛らしい姫君をお迎え遊ばしたんでしょうって。
18:32よく言うよ、ちゃんと聞こえてたんだから。
18:36お飲み物はいかがでございますか。
18:38ありがとう。
18:45あら、美味しいジュース。
18:48いかがですか。
18:50どうぞ。
18:51ありがとう。
18:56あ、これシャンペンじゃないの。
18:58そうよ。
18:59いけない、これだって立派にお酒なのに。
19:02ベニョさん、シュラン。
19:10これはジュースだからどうったことないの。
19:14ベニョさん、それは。
19:17これこれ、ランコ。
19:18はい。
19:19わしに酒を持ってきてくれ。
19:20あの、後ほど。
19:21今すぐじゃ。
19:23はい。
19:25はい。
19:41しまったな、招待からはぐれたか。
19:52誰か。
19:56俺です、松尾。
19:58あ、お兄ちまか。
20:00小林は無事届けました。
20:01さ、早く。
20:02あ、すまん。
20:07狼に食われちまったかと思いましたぜ。
20:09なに、俺のことなんか犬も食わんさ。
20:13返せよ。大切な品なんだろ。
20:16松尾、持っててください。
20:19縁起のいいサイコロでね。
20:21そいつ持ってると不思議と病気も怪我むしね。
20:24そんなに大切な品なら、なおさらもらうわけにはいかんぞ。
20:28持ってなよ、松尾。
20:30黙れ。
20:31あ、お兄ちゃん。
20:32お兄ちゃん。
20:33お兄ちゃん。
20:34お兄ちゃん。
20:35お兄ちゃん。
20:36お兄ちゃん。
20:37お兄ちゃん。
20:38お兄ちゃん。
20:39お兄ちゃん。
20:40お兄ちゃん。
20:41お兄ちゃん。
20:42松尾、黙れ。
20:43お前が持ってろ。
20:47松尾、死ぬときは一緒だぜ。
21:05松尾、お客さんです。
21:08うん、囲まれたか。
21:13知らぬこととは言いながら、破ってしまった禁酒の誓い。
21:19神の怒りに触れたのか、松尾の身に不吉な影が。
21:24さあ、どうする、はいからさん。
21:27離れ離れの夜は更ける。