• 8 年前
ロンドン五輪の体操男子団体総合決勝で銀メダルを獲得した日本が、奇妙な疑惑にさらされた。最終種目で一度は低い点数が出ながら、抗議によって得点が加算されたのは、日本が審判団を買収したのではないかというのだ。

その「証拠」としてインターネット上に流れたのが、日本のコーチが米ドル札を審判席に向かって渡そうとしている写真だ。真相はどうなのか。

「なぜ日本コーチは100ドル札を持っていたのか」

英国時間7月30日に行われた団体総合決勝では、内村航平選手が最終種目のあん馬で、倒立状態から着地する際にバランスを崩し、よろめきながらも何とか両足で降り立った。しかし、一連の流れが技として加点対象とみなされず、得点は13.466となりチームは最終的に4位に転落。逆転優勝どころかメダルをも逃す「悪夢」となった。

採点に納得できなかった日本のコーチ陣が、すぐ審判席に駆け寄って抗議を始めた。技の難度を表す「Dスコア」(演技価値点)で、内村選手が着地に至る技の認定をめぐってのものだ。映像では、複数の審判員がノートパソコン上で再生された内村選手の演技に目をこらしている様子が見られた。15分後、抗議が認められて得点は14.166となり、日本の銀メダルが確定した。

この過程で、日本側が審判に現金を渡していたという。米ヤフースポーツが、「問題のシーン」を写した画像を公開したのだ。

見ると、日本人コーチと見られる男性が、左手に書類と米ドル札を握りしめ、2人の審判員に対している写真が載っている。右上に米テレビ局「NBC」のロゴがあるので、テレビ放送の画面をキャプチャーしたのかもしれない。記事には、「なぜ日本の体操コーチは、審議を請求するために100ドル札を持っていたのか」との見出しがついている。同様の内容を報じた別のメディアの記事は、ツイッター上で「体操の日本代表が審判員に現金授与」などと題されて拡散した。これだけでは、まるで日本がカネにモノを言わせて審判団を買収し、加点させてメダルを奪ったと受け取られる恐れがある。だが、世界中が注目する場で明らかに不正と分かる行為を、目に見える形で行う人がいるだろうか。

当日のTBSの中継で、日本の加藤裕之、森泉貴博両コーチが審判員席に詰め寄ってから得点が変更されるまでの映像を確認した。当初、口頭で何やら主張していたコーチは、運営側の担当者と思しき人物に促されて書面に記入し、提出していた。ただ、現金を渡していたようなシーンは最後まで登場しなかった。
1回目の抗議には300ドル、2回目は500ドル

案の定、一部の外国人は「日本は最低だ」「採点が気に入らなかったら審判にカネを渡すのか」など、日本チームを中傷する英文の書き込みを残した。

実際は買収でも何でもない。国際体操連盟(FIG)は、体操競技の国際大会における運営規則を定めている。第8条が「採点」に関する内容で、その4項が「採点への審理請求」に当てられている。

採点への抗議は「Dスコア」に限って認められており、まずは口頭で行うことが条件だ。タイムリミットは「得点が出た後、すぐ。遅くとも次の競技者や団体が演技を終える前」で、最終演技者の採点に関する抗議については「点数がスコアボードに表示されてから1分以内」となっている。日本のコーチ2人が急いで審判員席に向かったのは、内村選手が日本チーム最後の演者だったためだろう。制限時間外の請求は認められない。

口頭で抗議した後、今度は4分以内に書面の提出が求められる。これで正式な手続きが完了するわけだ。規定では書面のほかに必要なものとして、

「1回目の抗議には300ドル、2回目は500ドル、3回目は1000ドルの支払いが必要となる」
と書かれていた。米メディアの掲載写真で、日本人コーチが握りしめていた米ドル札は、FIGが定めた「抗議手数料」だったとみられる。抗議内容が受け入れられた場合は返金される決まりのため、今回の日本側の支払いも戻されたはずだ。

米ヤフーの記事でも、本文ではFIGの規定にのっとった手数料だったと説明しているが、見出しと写真だけを見る限りでは日本側が不可解な行動をとったように読める。米紙「USAトゥデー」のブログでも、見出しが「日本男子体操チームが審判に現金授与」との表現だ。正当な手続きを踏んだ日本チームにとっては、とんだ誤解を生むワンシーンが切り取られてしまった。

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